「遺言書は必要と聞くけれど、本当に自分にも必要なのだろうか…」 「まだ元気だし、遺言書を作るのは早いのでは?」
このような疑問をお持ちの方は少なくないでしょう。実際、日本公証人連合会や法務省の統計によると、令和5年に作成された公正証書遺言は約11万8千件、法務局で保管された自筆証書遺言は約1万9千件となっており、年間で約13万件以上の遺言書が作成されています。
しかし、厚生労働省の人口動態統計によると、令和4年の死亡者数は約156万人ですから、遺言書の作成率は約8〜9%程度と推計されます。つまり、10人に1人程度しか遺言書を作成していないのが現状です。
一方で、総務省の調査では60歳以上の方の3割以上が「遺言書を作成したい」と回答しており、関心と実際の行動にギャップがあることがわかります。
遺言書が特に必要なケース
民法では、遺言書がない場合、法定相続人が法定相続分に従って財産を相続することになります(民法第886条以下)。しかし、以下のようなケースでは、遺言書がないことで相続時にトラブルが生じる可能性が高くなります。
□ 自宅など分けにくい財産が主な遺産である
遺言書がない場合、相続財産は相続人全員の共有となります。よって、売却手続きをするにしても、誰が相続するかにしても、相続人全員で手続きをすることになります。また、不動産などは現物で分割することが難しいものですので、できるだけ遺言書で相続する人を指定しておく方が、後の相続トラブルの予防に効果的です。
□ 相続人の中に音信不通の人がいる
遺産分割協議(相続財産に関する相続人の話し合い)には相続人全員の合意が必要です。連絡が取れない相続人がいると、手続きが長期化する可能性があります。
□ 相続人以外の人に財産を残したい
内縁のパートナーや長年お世話になった方など、法定相続人でない方に財産を残すには、原則として遺言書が必要です(民法第964条)。
□ 特定の相続人に多くの財産を残したい
法定相続分とは異なる配分を希望する場合、遺言書がなければその意思を実現できません。ただし、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があることに留意が必要です。
□ 事業を営んでいる
事業用資産や自社株を後継者に集中して承継させたい場合、遺言書による指定が有効です。
□ 相続人が複数いて、関係が良好とは言えない
相続人間の関係性によっては、遺産分割協議が円滑に進まない可能性があります。裁判沙汰に発展することも、決して珍しくないので、専門家としては遺言書を作成しておくことを強く推奨します。
□ 再婚していて、前妻(前夫)との間にも子どもがいる
複数の家族関係がある場合、遺言書で明確に意思表示をしておくことが望ましいでしょう。
□ 子どもがおらず、配偶者と兄弟姉妹が相続人になる
このケースでは、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が共同相続人となり、配偶者が全財産を相続できないことがあります。
遺言書がない場合のリスク
1. 遺産分割協議の難航
遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。相続人間で意見が対立すると、家庭裁判所での調停や審判に発展する場合があります。
最高裁判所の司法統計によると、令和5年の遺産分割に関する事件は約1万3千件に上り、そのうち約43.8%が遺産価格1,000万円超5,000万円以下のケースとなっています。「うちは財産が少ないから大丈夫」とは言えない状況です。
2. 相続手続きの長期化
相続人の中に連絡が取れない方や海外在住の方がいる場合、遺産分割協議が長期化する可能性があります。また、認知症などで判断能力が低下している相続人がいる場合は、成年後見人の選任が必要になることもあります。
3. 意図しない財産の分散
法定相続分による相続では、被相続人の意思が反映されない可能性があります。特に事業承継や不動産の承継において、望まない結果になる場合があります。
遺言書がある場合のメリット
1. 相続人の負担軽減
遺言書があることで、相続人は遺産分割協議を行う必要がなくなる場合があります。特に公正証書遺言や法務局で保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認手続きが不要となります。
法務局における遺言書保管制度は令和2年7月から開始されており(法務局における遺言書の保管等に関する法律)、手数料は遺言書1通につき3,900円です。この制度を利用すると、遺言書の紛失や改ざんのリスクを軽減できます。
2. 相続トラブルの予防
法的に有効な遺言書があることで、相続人間での争いを未然に防ぐことが期待できます。また、遺言書には「付言事項」として、法的効力はありませんが、なぜそのような内容にしたのか、遺族へのメッセージを記載することもできます。
3. 希望する財産配分の実現
法定相続分とは異なる配分や、相続人以外への遺贈が可能になります。ただし、遺留分の規定には注意が必要です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障される最低限の相続分です。遺留分を侵害する遺言も無効ではありませんが、遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分の割合は、直系尊属(両親や祖父母など)のみが相続人の場合は相続財産の3分の1、その他の場合は2分の1です。
遺言書の作成方法
民法では、遺言の方式として普通方式と特別方式が定められていますが、一般的に利用されるのは普通方式の以下の3種類です。
1. 自筆証書遺言
遺言者が、その全文、日付、氏名を自書し、押印することで作成できます。平成31年の法改正により、財産目録についてはパソコン作成や通帳コピーの添付も可能になりました。
ただし、財産目録の各ページには署名押印が必要です。
2. 公正証書遺言
公証人が作成するため、方式不備で無効になるリスクが低い方法です。証人2人以上の立会いが必要で、未成年者や推定相続人などは証人になれません。
3. 秘密証書遺言
遺言の内容を秘密にしたまま、その存在を公証人に証明してもらう方式ですが、実務上はあまり利用されていません。
遺言書作成のタイミング
遺言書は、満15歳に達した者であれば作成できます。「まだ早い」ということはありません。むしろ、以下のような理由から、元気なうちに作成しておくことが望ましいでしょう。
- 遺言能力(意思能力)がある状態で作成する必要がある
- いつ何が起こるかわからない
- 遺言書は何度でも書き直しができる
また、作成後も、結婚・離婚、子どもの誕生、財産状況の変化など、ライフイベントに応じて定期的に見直すことをお勧めします。
まとめ
「遺言書は必要ですか?」というご質問に対する答えは、ご家族の状況や財産の内容によって異なります。しかし、統計が示すように、遺言書の作成率は約8〜9%にとどまる一方で、遺産分割に関する家庭裁判所の事件は年間1万件を超えています。
「うちは財産が少ないから大丈夫」 「家族は仲が良いから揉めない」
このようにお考えの方も多いでしょう。しかし、実際の紛争事例の約44%は遺産価格5,000万円以下のケースです。また、生前は良好だった家族関係が、相続を機に悪化してしまうことも少なくありません。
遺言書は、ご自身の想いを大切な方々に届けるためのツールです。同時に、残されるご家族が困難な決断を迫られることなく、スムーズに相続手続きを進められるよう配慮する、最後の思いやりでもあります。
今日からできること
- まずはチェックリストで確認
本コラムのチェックリストで、ご自身の状況を確認してみましょう。1つでも該当する項目があれば、遺言書の作成を検討する価値があります。 - ご家族と話し合う
遺言書の話題は切り出しにくいかもしれませんが、元気なうちに家族と財産や相続について話し合うことは、お互いの考えを理解する良い機会になります。 - 専門家に相談する
遺言書の作成方法や内容について、行政書士などの専門家に相談することで、ご自身の状況に最適な方法が見つかります。相談することで漠然とした不安が具体的な安心に変わります。
遺言書は何度でも書き直すことができます。完璧を目指す必要はありません。まずは一歩踏み出してみることが大切です。
当センターでは、遺言書作成に関する無料相談を実施しております。「こんなことを聞いていいのかな」という些細なことでも構いません。お客様のご状況を丁寧にお伺いし、最適な方法をご提案させていただきます。お気軽にお問い合わせください。
※本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的なケースについては、専門家にご相談ください。
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