「遺言書を作りたいけれど、自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらがいいのだろう…」 「費用や手間はどれくらい違うの?」 「それぞれのメリット・デメリットを知りたい」
遺言書を作成しようと決めたものの、どの方式を選べばよいか迷われる方は多くいらっしゃいます。日本公証人連合会の統計によると、令和5年に作成された公正証書遺言は約11万8千件、一方で法務局に保管された自筆証書遺言は約1万9千件となっており、公正証書遺言の方が多く利用されています。
公正証書遺言の方が確実性が高いので、「せっかく遺言を作るなら」という方が公正証書遺言を選択する人が多いですね。当センターへご相談にいらっしゃる方も、皆さん公正証書遺言を選んでいます。
本コラムでは、自筆証書遺言と、公正証書遺言の特徴を詳しく比較し、選び方のポイントをご説明します。
基本的な違いを理解する
自筆証書遺言
遺言者が、その全文、日付、氏名を自書し、押印することで作成する遺言書です。遺言書、と聞くと達筆な字で書かれた手紙のようなものを想像する方が多いんじゃないかな~と思います。それが自筆証書遺言です。
また、平成31年の法改正により、財産目録についてはパソコンでの作成や通帳コピーの添付も可能になりました(ただし、目録の各ページには署名押印が必要です)。
作成場所: 自宅など、どこでも可能
立会人: 不要
費用: 基本的に不要(法務局保管制度を利用する場合は3,900円)
公正証書遺言
公証人が遺言者の口述をもとに作成する遺言書です。証人2人以上の立会いが必要で、原本は公証役場で保管されます。
作成場所: 公証役場(出張も可能)
立会人: 証人2人以上が必要
費用: 公証人手数料が必要(後述)
詳しい比較表
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
|---|---|---|
| 作成の手軽さ | ◎ いつでもどこでも作成可能 | △ 公証役場に出向く必要あり |
| 費用 | ◎ 基本無料(保管制度利用で3,900円) | △ 数万円〜十数万円 |
| 証人 | ◎ 不要 | △ 2名必要 |
| 秘密性 | ◎ 内容を誰にも知られない | △ 証人に内容が知られる |
| 方式不備のリスク | △ 方式不備で無効になる可能性 | ◎ 公証人が確認するため低い |
| 紛失・改ざんリスク | △ 自宅保管の場合:あり ◎ 法務局保管の場合:なし | ◎ 公証役場で保管されるためなし |
| 検認手続き | △ 必要(法務局保管以外) ◎ 法務局保管なら不要 | ◎ 不要 |
| 遺言内容の相談 | △ 自分で考える必要あり | ○ 公証人に確認してもらえる |
| 見直しの容易さ | ◎ いつでも書き直し可能 | △ その都度費用が発生 |
自筆証書遺言のメリット・デメリット
メリット
- 費用がかからない
紙とペンがあれば作成できます。法務局の保管制度を利用する場合でも、手数料は3,900円(法務局における遺言書の保管等に関する法律関係手数料令)です。 - いつでもどこでも作成できる
思い立ったときに、自宅でも作成できます。公証役場の予約や証人の手配なども不要です。 - 内容を秘密にできる
誰にも内容を知られずに作成できます。法務局保管制度を利用しても、内容は確認されません。 - 何度でも書き直しが容易
内容を変更したい場合、新しく書き直すだけで済みます。
デメリット
- 方式不備で無効になる可能性
判例では、「昭和四拾壱年七月吉日」という日付は無効とされています(最高裁昭和54年5月31日判決)。また、花押(かおう)による押印も認められません(最高裁平成28年6月3日判決)。このように、厳格な要件が定められており、わずかな不備で無効になる可能性があります。 - 検認手続きが必要(法務局保管制度を利用しない場合)
民法第1004条により、公正証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所での検認が必要です。検認には、家裁への申立てや戸籍の収集などの手間と時間がかかります。
なお、法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条により、法務局で保管された遺言書は検認が不要です。 - 紛失・改ざんのリスク(自宅保管の場合)
自宅で保管する場合、発見されないリスクや、相続人による破棄・改ざんのリスクがあります。 - 内容の適切性について専門家の確認がない
法的に有効であっても、相続人間で紛争になりやすい内容になっている可能性があります。
公正証書遺言のメリット・デメリット
メリット
- 方式不備で無効になるリスクがほぼない
公証人という法律の専門家が作成するため、方式不備で無効になることはほとんどありません。 - 検認手続きが不要
民法第1004条第2項により、公正証書遺言は検認が不要です。相続開始後、すぐに相続手続きを進めることができます。 - 原本が公証役場で保管される
原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。保管は長期間(遺言者の死亡の日から50年間)確実に行われます。 - 内容について公証人に相談できる
作成時に公証人と相談できるため、法的に問題のある内容を避けることができます。ただし、公証人は遺言内容そのものの相談には応じないことが一般的です。 - 遺言執行がスムーズ
検認不要のため、相続開始後すぐに金融機関での手続きや不動産登記などを行うことができます。
デメリット
- 費用がかかる
公証人手数料令により、以下のような費用が発生します。 - 証人2名が必要(なお、民法第974条により、以下の方は証人になれません。)
- 未成年者
- 推定相続人・受遺者およびその配偶者・直系血族
- 公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人
適切な証人が見つからない場合、公証役場に紹介を依頼することもできますが、費用が発生します。
- 内容が証人・公証人に知られる
証人2名の立会いが必要なため、遺言の内容を完全に秘密にすることはできません。 - 作成に時間がかかる
必要書類の収集、公証人との打ち合わせ、証人の手配、日程調整などで、通常2週間〜1ヶ月程度かかります。
法務局の遺言書保管制度について
令和2年7月から開始された「法務局における遺言書の保管等に関する法律」に基づく制度です。自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるもので、自筆証書遺言と公正証書遺言の中間的な選択肢といえます。
特徴
- 手数料:1通につき3,900円
- 検認:不要(同法第11条)
- 保管期間:遺言者の死亡の日から原本は50年間、画像データは150年間
- 予約制:法務局手続案内予約サービスで予約が必要
- 本人出頭:保管申請時は遺言者本人が行く必要性があります
メリット
保管料を考慮しても、公正証書遺言よりトータルの費用が安いことに加え、紛失・改ざんのリスクがないことが大きなメリットと言えます。また、検認も不要なため、スムーズに相続の手続きに入ることができます。
注意点
法務局は遺言書の形式的な確認のみで、内容の相談には応じるわけではありません。また、遺言書としての有効性を保証するわけではないので、形式不備で無効になる可能性は残ります。
どちらを選ぶべき?ケース別おすすめ
自筆証書遺言(法務局保管制度利用)がおすすめのケース
- 費用を抑えたい
- 内容を誰にも知られたくない
- 比較的シンプルな内容(「全財産を配偶者に」など)
- 法的要件を確実に満たせる自信がある
- 定期的に内容を見直す可能性が高い
公正証書遺言がおすすめのケース
- 相続財産が複雑(不動産が複数、事業用資産があるなど)
- 相続人間で争いが予想される
- 高齢で、後日方式の有効性を争われる可能性がある
- 体が不自由で自書が困難
- 相続開始後、できるだけ早く手続きを進めたい
- 遺言執行をスムーズに行いたい
迷ったら専門家に相談を
遺言書の作成方式は、ご自身の状況、財産の内容、ご家族の関係性などによって、最適な選択が異なります。
統計上、公正証書遺言の利用が多いのは、専門家のアドバイスを受けながら作成する方が多いためと考えられます。一方で、費用面や秘密性を重視して、法務局保管制度を利用した自筆証書遺言を選ぶ方も増えています。
両方式に共通する重要なポイント
1. 遺留分への配慮
どちらの方式で作成しても、民法第1042条以下に定める遺留分の規定は適用されます。遺留分を大きく侵害する内容の場合、後日、遺留分侵害額請求(民法第1046条)を受ける可能性があります。
2. 定期的な見直し
遺言書は何度でも書き直すことができます(民法第1022条)。結婚・離婚、子どもの誕生、財産状況の変化など、ライフイベントに応じて見直すことをお勧めします。
ただし、公正証書遺言の場合は、その都度費用が発生する点にご注意ください。
3. 遺言執行者の指定
どちらの方式でも、遺言執行者を指定しておくことで、相続手続きがスムーズに進みやすくなります(民法第1006条以下)。
まとめ
自筆証書遺言と公正証書遺言、それぞれに長所と短所があります。
「費用をかけずに、自分のペースで作成したい」 → 自筆証書遺言(法務局保管制度の利用を推奨)
「多少費用がかかっても、確実で、相続開始後の手続きをスムーズにしたい」 → 公正証書遺言
どちらが正解ということはなく、ご自身の状況とニーズに合わせて選択することが重要です。一方で、専門家としては公証人による作成により、有効性の担保が段違いに違うため、公正証書遺言を推奨しております。
専門家に相談するメリット
遺言書の作成にあたっては、以下の理由から、行政書士・司法書士・弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。
- 法的に有効な遺言書を作成するためのサポートをしてもらえる
- 相続トラブルを未然に防ぐ内容にできる
- ご自身に最適な方式を選択できる
- 公正証書遺言の場合、公証人との打ち合わせなどをサポートしてもらえる
- 遺言執行についてもアドバイスを受けられる
当センターでは、遺言書作成に関する無料相談を実施しております。お客様のご状況を丁寧にお伺いし、最適な方式をご提案させていただきます。
「まずは話を聞いてみたい」「どちらがいいか判断できない」という方も、お気軽にお問い合わせください。
※本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的なケースについては、専門家にご相談ください。