「そろそろ相続のことを考えなきゃ」「認知症になったらどうなるんだろう」「家族にだけは迷惑をかけたくない」 そんな思いが頭をよぎりつつも、「でも、具体的に何から手を付ければいいのか分からない」というお声は本当に多いです。
生前対策は、決して特別な資産家だけがするものではありません。早めに整理をしておけばおくほど、将来の選択肢は広がりますし、何より残されるご家族の負担を大きく減らすことができます。
このコラムでは、行政書士として日々ご相談をいただく中で、特に大切だと感じるポイントをまとめました。
まずは自分の財産を整理する
生前対策で、一番はじめにやっておきたいのが「財産の棚卸し」です。
「うちは大した財産なんてないから大丈夫」とおっしゃる方でも、実際に調べてみると、あちこちの預金口座や保険、不動産、ローンなどが点在していて、ご家族がすべてを把握しきれていない…というケースが多々あります。
棚卸しをして、自分の財産について「何がどこにあるか」を明確にすることは、遺言書や家族信託、任意後見といった次のステップを設計するための土台になります。全体像が曖昧なままだと、どの手続きが最適なのかという方向性が定まりません。
まずは、最低限以下のような項目を一覧にしておくと安心です。
| 預貯金 | 銀行名/支店名/口座種別/口座番号/残高の目安 |
| 不動産 | 所在地/名義(登記)/利用状況(自宅・賃貸など) |
| 保険 | 保険会社/契約内容/受取人/満期・給付の条件 |
| 有価証券 | 証券会社/銘柄/口座の有無(ネット証券も含む) |
| 負債 | 借入先/残債/保証人の有無/返済条件 |
| その他 | 車・貴金属・骨董/暗号資産やネット口座など |
不動産の名義にも要注意
不動産をお持ちの方は、単に「持っている」というだけでなく、名義がどうなっているかの確認も非常に重要です。
2024年4月から始まった「相続登記の義務化」に加え、2026年4月からは住所や氏名の変更登記の義務化も予定されています。 「昔の名義のままになっている」「住所変更をしていない」といった状態は、将来いざ手続きをしようとした際に、ご家族の負担が大きくなりやすいポイントです。今のうちに現状を把握しておくだけでも、大きな安心につながります。
遺言書で「意思」を残す
遺言書は、ご自身が亡くなった後の財産の分け方について、その「意思」を法的に形にできる大切な手段です。遺言書があるだけで「誰が何を継ぐか」が整理され、相続人同士の話し合いにかかる負担も軽くなります。
特に、以下のようなケースでは遺言書が大きな力を発揮します。
- 不動産がメインの財産で、きれいに切り分けるのが難しい
- 相続人が複数いて、話し合いをまとめようとすると時間がかかりそう
- 事業や家業を、特定の誰かにしっかりと引き継がせたい
- 内縁関係や事実婚のパートナーなど、法律上の相続人以外に財産を渡したい
遺言書の種類と選び方
遺言書にはいくつか種類がありますが、実際の手続きでよく使われるのは「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2つです。
- 公正証書遺言(確実性を重視したい方向け) 公証役場で作成し、原本も役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクを大きく減らせます。財産が多い方や、相続関係が複雑な方、将来の争いをできるだけ避けたい方に向いています。
- 自筆証書遺言(手軽に始めたい方向け) ご自身で書くため費用を抑えられます。ただし、書き方のルール(形式)を間違えると無効になってしまうリスクもあります。最近では、法務局で遺言書を預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」もあり、以前よりも利用しやすくなっています。
行政書士ができるサポート
遺言書は「ただ書けばいい」というものではなく、法的に有効であり、かつ、実際にその通りに名義変更などの手続きができる内容になっているかどうかが非常に重要です。
当事務所では、まずはお客様のお気持ちを丁寧にお伺いすることから始めます。そのうえで、財産状況やご家族の関係性に寄り添いながら、最適な分け方や文案を一緒に整理していきます。
特に公正証書遺言を作成する場合は、公証役場との細かな打ち合わせや必要書類の収集など、準備段階の面倒な作業もすべて代行・サポートいたします。
認知症リスクに備える(任意後見契約)
将来、もし認知症などで判断能力が低下してしまうと、日常生活に意外な支障が出てきます。例えば、本人名義の預金が引き出せなくなったり、介護施設に入るための不動産売却や契約ができなくなったりといった問題です。
こうした「もしも」の事態に、ご自身の意思で備えておく制度が任意後見契約です。
任意後見契約の最大の特徴は、まだお元気でしっかりしているうちに、「将来、誰にどんなサポートをしてほしいか」をあらかじめ決めておける点にあります。この契約は、将来のトラブルを防ぐために公証役場で公正証書として作成します。
手続きのざっくりとした流れ
- 後見人の候補を決める
信頼できるご家族や、法律の専門家など、将来を託したい相手を選びます。 - サポートしてほしい内容を整理する
預金の管理や支払い、福祉サービスの手続きなど、具体的に任せたい範囲を決めます。 - 公証役場で契約を結ぶ
公証人の立ち会いのもと、正式な契約書(公正証書)を作成します。 - いざという時にスタート
将来、判断能力が低下した際に、家庭裁判所で「監督人」が選ばれることで、正式にサポートが始まります。
家族の負担を減らすために
任意後見は、ご自身の権利を守るだけでなく、支えるご家族の負担を軽くするための仕組みでもあります。
ただし、契約の中に盛り込む「代理権(代わりにできること)」の設計を間違えてしまうと、いざという時に「そこまでは任されていないので動けません」といったことになりかねません。お客様の生活スタイルや財産の内容に合わせて、漏れのないサポート体制を一緒に考えていきましょう。
家族信託を利用する
「もし認知症になったら、自宅の管理や売却ができなくなるのでは?」「子どもに管理を任せたいけれど、今すぐ名義をすべて贈与してしまうのは不安」 そんな悩みを解決する新しい選択肢として、最近注目されているのが家族信託です。
家族信託とは、信頼できるご家族に財産の管理を託し、あらかじめ決めた目的に沿って運用してもらう仕組みです。 最大の特徴は、「判断能力が低下した後も、契約で決めたルールに基づいて、管理や売却がストップせずに続けられる」という点にあります。
ただし、家族信託は自由度が高い分、丁寧な設計が欠かせません。
- 誰が管理するのか
- 何のためにその財産を使うのか
- 最終的に誰にその財産を渡すのか
これらを最初にしっかり整理しておかないと、親族間での誤解やトラブルを招く恐れもあります。ご家族全員が納得できる「安心の形」を一緒に作っていきましょう。
エンディングノートを作成しておく
エンディングノートには、遺言書のような法的な強制力はありません。 「それなら書かなくてもいいのでは?」と思うかもしれませんが、実は残しておく価値は非常に大きいです。その理由は単純で、「家族が迷ったり、困ったりするポイント」を先回りして解決できるからです。
法的な財産分けの前に、ご家族は以下のような判断を迫られます。そんなとき、ノートにあなたの考えが記されていれば、それが何よりの助けになります。
- 医療・介護の希望(延命治療はどうするか、どの施設に入りたいか)
- 葬儀やお墓の希望(どんな形式にしたいか、誰を呼んでほしいか)
- 緊急連絡先(親戚、友人、昔の同僚などのリスト)
- デジタル情報の整理(スマホのロック解除、サブスク契約、SNS、ネット口座)
「いつか書こう」と構えず、思い立ったら作成しておきましょう。まずは書けるところから、少しずつ埋めてみるだけでもいいんです。
一度に全部書こうとせず、思いついたところから少しずつ足していく形で問題ありません。
まとめ|生前対策は「できるところから」
生前対策の目的は、決して「完璧な書類を揃えること」ではありません。 本当に大切なのは、「将来、自分も家族も、安心して毎日を過ごせるようにしておくこと」です。いざという時に、残されたご家族が迷い、困ってしまうのを防ぐための先回りの優しさこそが生前対策の本質と言えます。
ここまでお伝えしたポイントを振り返ってみましょう。
- 財産の棚卸し: まずは全体像をつかみ、整理の土台を作る
- 遺言書: 自分の「意思」を法的な形にして残す
- 任意後見: 将来の判断能力の低下に備え、信頼できる人を指名しておく
- 家族信託: 柔軟な財産管理の仕組みを作り、資産を凍結させない
- エンディングノート: 家族の精神的な負担や「困った」を減らす
これらを一度にすべて完璧にやろうとする必要はありません。まずは今の状況で「何を優先すべきか」、そして「どこまで備えるべきか」を一緒に整理していくことから始めましょう。
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